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スケルトン　　　 　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　 2 / 3

そしてこの日。前回同様にイギリス庭園の芝生の方向から近づいてゆく 　　と、キャメル色の原っぱ向こうに拡がるプラタナス並木の遠景は、私には 　　落葉した樹木の連なりと言うよりは灰色もしくは灰白色の石造りのオブジ 　　ェのように見えたのである。 並木の入口に着いてみると「プラタナス並木 　　剪定中」の立て看板が先ず目に入った。 辺りの並木を見回してみると、 　　確かに北側の並木は殆ど剪定が済んでいて、枝先の細枝がサッパリと 　　切り落とされている。私は初めて知ったのだが、この並木のプラタナスは 　　樹形を維持するため、前年に伸びて葉を茂らせた新梢を切り払っていた 　　のだ。「なるほど。サルスベリと同じように剪定するんだ」　そう理解して、 　　私は改めて前方に延びる、幹と大枝だけの剥き出しの姿となったプラタナ 　　ス並木を見通してみた。そして、剪定直後の並木全体が極めて無機質な 　　雰囲気をたたえているのを感じ取り、直前に眺めた遠景が オブジェの行 　　列のように見えたことも納得出来たのである。 　　　私は暫くの間、落ち葉一つ無く清掃された、明るい午後の陽射しが降り 　　注ぐ並木の下を散策しつつ、時折足をとめては個体差に富む樹形と木肌 　　の紋様を楽しんでいた。が、やがて、木肌の白さが際立つ剪定済みの一 　　本を見上げるに及んで、「まるでスケルトン（骸骨）のようだな」という印象 　　を持ったのである。太い幹は脊柱で、そこから出る枝があばら骨のように 　　感じられたのだ。 一度そういう感覚を持つと不思議なもので、どの木もど 　　の木もみな「骨」に見立てるようになってしまう。 さらに、暗雲垂れ寒風 　　吹き荒ぶ天候を想像したりすると、その中に佇む姿はまさにスケルトンを 　　彷彿させる、という感を強くしたのだ。 初冬に訪れた際、まだ僅かに葉を 　　残す一本の木から受けた不気味な印象は、その時点で私が同じようなイ 　　メージを無意識のうちに抱いた所為かも知れない。 　　　この日、私は花を訪ねて苑内を巡った折、千駄ヶ谷門に近い芝生広場で 　　数本のアメリカスズカケノキの巨樹を見ていた。これらの巨樹は自然のま 　　まにのびのびと成長させられたもので、奔放な枝張りとその先に細かく分 　　かれた梢を持つ佇まいは他の落葉喬木に共通するものだった。 木肌は 　　スズカケノキ属（プラタナス）の木特有の似通ったものではあったが、私は 　　その姿から特異なイメージを受けることも無かったのである。フランス式 　　庭園のプラタナス（モミジバスズカケニキ）が私にスケルトンのイメージを 　　もたらした原因は、どうやらこの木が持つ特有の木肌の色調と計画的に 　　整えられたゴツゴツ骨っぽい樹形との相乗効果にあったようだ。 　　　スケルトンの妄想を早々に振り払い、私は並木の一本一本をオブジェと 　　して鑑賞する散策を続け、庭園の両翼を一通り巡った。その間、様々な角 　　度から並木の景観を楽しんだが、そこには何時も幾分モノトーンだが非常 　　に味わいのある光と影の空間が広がっていたように思う。 並木の剪定が 　　完了するのが２月末とのこと。私は「落葉期のプラタナス並木鑑賞最適期 　　は３月半ばまで」と自らにインプットして午後の陽がまだ明るい新宿御苑を 　　後にした。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(２００５年　２月末） 　　　　　　　　　　　　　　前頁へ　　　　　　　　　　　　　次頁へ 　＜写真をポイントして下さい＞