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愛しのキングフィッシャー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　４／１０

再　　会　　［　９６．６．１５　］　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (1/2)

関東地方が梅雨入りしてかれこれ一週間になるが、今日は運良く 梅雨晴 　れとなった。 しかし、晴れとは言いながらも雲が多く、時々薄日が射すといっ 　た具合の日和である。 　　先週、神田川の上流で、思いがけずカワセミを目撃した。もしかしたら今日 　も、という淡い期待を抱きながら、二時過ぎに神田川の遊歩道に出た。 　　たまにはコースを変えてみようと、高井戸を過ぎてから神田川を離れ、少し 　南へ下って、ほぼ並行して流れる玉川上水の緑道へ入る。 両岸に鬱蒼と茂 　る樹木のおかげで、緑道を吹き抜ける風は極めて涼やかであった。　道々、 　久我山、牟礼、井の頭周辺に点在する 生産緑地の様子を観察しながら、目 　的地の井の頭公園にたどり着く。 池をめぐり、一服してから神田川沿いに復 　路にかかる。 　　久我山中央緑地にさしかかったのは、先週とほぼ同じ様な頃合い。あたか 　も恋人を探すような気持ちで、先週カワセミが漁をした辺りを注意深く探して 　みる。同じ場所に同じ時間帯に現れる、ということを期待したのであるが、今 　日は発見できなかった。足を止め、しばらくの間未練がましく護岸のフェンス 　にもたれて川面を覗き込んだりする。 　　今日は、先週に比べて人通りが多く、周囲の雰囲気も落ち着きがない。鳥 　もこれを嫌ったのだろうか。ようやく諦めて歩き始めたものの、何となくピッチ 　もあがらなかった。 　「先週、こんな所でカワセミが見られたこと自体が奇蹟のようなものよ。それ 　だけで運が良かったと思わなくちゃ」と、妻が言う。 言われてみて、それもそ 　うかと不承不承納得し、先行する妻の後を追った。 　　久我山駅前の商店街を過ぎ、井の頭線の検車区横を富士見が丘駅方向 　に向かう途中、南岸斜面に茂る大木の梢で鳥が群をなして飛び回っている。 　　　　　　　　　　　　前頁へ　　　　　　　　　　　　　　　次頁へ