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愛しのキングフィッシャー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ５／１０

再　　会　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　 (2/2)

日没間際の陽が陰りかけている上に、高さがあるので良く見えない。 鳴き 　声とシルエットから、あれは（オナガだ）いや（カササギだ）などと妻と言い交 　わしながらも、一方で私の目は、川面に、護岸の縁にと カワセミの姿を探し 　求めていた。 　　遊歩道の北側に およそ五百メートルにわたって続いている富士見が丘検 　車区がほどなく終わろうとしていた。その東端にある出入り口前にさしかかっ 　た時である。たぶん先週見かけた個体と同じものであろう、あの鳥の姿を対 　岸に発見したのだ。「居た！　おい、カササギだぞ」と、私はつい大きな声を 　出してしまった。 「何？　カササギ？」と妻が問い返す。私は興奮のあまり、 　カワセミをカササギと口走ってしまった様だ。 　　検車区の入り口前にかかる橋の袂、対岸上流側に鉄の梯子が降りてい 　る。橋桁からちょっと横へ外して護岸面に埋め込んであるステップは、川床ま 　で十七、八段はあろうか。その最上段に「彼」はとまっていたのである。 　　彼はやはり水面を睨んでいた。ただ、先週見た時ほど集中できていないら 　しく、時々頭が左右に動く。我々が下を見ると、大型の鯉が多数泳いでいて、 　水面が揺れ動いている。　ハンティングには良くない条件の様に思われた。 　それでも彼は、対岸の十メートルの距離からじっと注視する二人の人間には 　全く無頓着な様子で水面を窺っている。 　　観察を始めてからものの一分も経たない中に、彼はダイビングを試みた。 　しかし、水から飛び出してもと居た位置に戻った彼の嘴に、小魚はくわえら 　れていなかった。失敗したらしい。 それから一、二分後、彼は再び飛び出し 　たが、水中には突っ込まず、川の中央でホバリングして、もと居たステップに 　舞い戻った。飛翔中の背中の瑠璃色が相変わらず美しい。 　　ほどなく、彼は我々がたたずむ位置から五メートルほど上流の水面ににダ 　イビングしたが、漁は再び空振りに終わった。 水から出て、橋の下を抜け、 　少し川下側に移動した後、チイーッと小さく鋭い鳴き声を残して、水面すれす 　れを下の方に飛び去ったのである。 一部始終は、私が彼を発見してから十 　分間にも満たないドラマであった。 　　「やはり居るんだ。 どこをねぐらにしているんだろう」 と、妻に問いかける。 　そして、飛び去った川下へ、追いかけるように足を早めて歩き出す。 なには 　ともあれ、「彼」に再会できたということで満足が深かった。　◇　◇　◇　◇ 　　　　　　　　　　　　前頁へ　　　　　　　　　　　　　　　　　次頁へ