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愛しのキングフィッシャー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　６／１０

空　振　り　　［　９６．９．８　］

久しぶりに神田川遊歩道を歩く。六月中旬には紫陽花、梔、金糸梅など 　　が盛りであった沿道は、今や百日紅、木槿、芙蓉などで彩られ、歩き慣れ 　　た道も極めて新鮮に感じられた。 　　　井の頭公園に向かう往路で、富士見が丘駅を過ぎる辺りから 川面や護 　　岸の周辺に観察の目を配りながらゆっくりと歩を進める。六月に二週連続 　　してカワセミに遭遇した水域に近づいたからである。しかしながら検車区周 　　辺では何事もなく、久我山中央緑地にさしかかったのが午後三時頃。最初 　　にカワセミを目撃した地点であり、手前側から十分注意して観察したが、お 　　目当ての鳥は来ていないようだ。その代わりと言うわけではなかろうが、見 　　慣れない水鳥が一羽、川床のコンクリート縁に瓢然と佇んでいた。カワセミ 　　を待つ気持ちもあり、暫くこの鳥を観察することにする。 　　　大きさは五十センチはあろうか、淡褐色の地に白っぽい縦縞状の斑紋が 　　入った羽毛を持ち、嘴と脚は緑がかっている。それが片脚で立っているの 　　だが、三十センチほど下の流れの中を窺うでもなく、風に吹かれたまま眠 　　るが如く動かない。鳥が佇む位置からいくらもない水中では、十センチほど 　　の小魚が銀鱗を閃かして泳ぎ回り、また鯉に混じって五十センチはある鯰 　　がゆったりと川底を動いている。 　　　十五分ほど眺めていたが、鳥は全く行動を起こす素振りを見せないの 　　で、こちらが根負けしてそこを出発する。 　　　いつもの通り井の頭池を巡った後、復路も同じ道を、六月中旬と同じ時 　　間帯に、注意深く歩いてみたが、「彼」と出会うことは無かった。◇　◇　◇　 　　　　　　　　　　　前頁へ　　　　　　　　　　　　　　　　　次頁へ