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愛しのキングフィッシャー　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　７／１０

す れ 違 い　　［　９６．９．１５　］　　　　　　　　　　　　　　　　　(1/2)

朝夕僅かに涼しさを覚える時候になったが、神田川遊歩道の植え込みに 　　も萩の花が咲き始めている。いつものように井の頭池を回り、復路で久我 　　山中央緑地にかかったのが丁度五時頃だった。 滝の手前から川全体を見 　　渡した時、水域東端の流れの中に水鳥が立っているのがすぐ目に入る。 　　対岸の植え込みに目を配りながら東へ移動したが、今日もカワセミの姿は 　　発見できない。とにかくこの辺りは、南岸のフェンス沿いに、所々背の低い 　　植え込みが有るだけで、道路下四、五メートルに展開する河床には鳥が身 　　を潜ませるような物陰は全く無いのだ。 　　　滝から五、六十メートル川下では護岸一杯の川幅が三分の一ほどに絞ら 　　れて、水深二十センチ足らずの瀬になっている。その中央で、先週見かけ 　　たあの水鳥、ホシゴイが首を上流側に向けて採餌をしていた。 流れに逆ら 　　って歩く動作も緩慢である。これでは動き回る魚なぞとても獲りきれまいと 　　思わせるような頼りなさであった。 　　　ホシゴイは五位鷺の幼鳥である。成鳥になると頭頂と背中は暗青色、翼 　　と尾は灰色、腹部は白色の羽毛となり、細長い白い冠羽を持つ。三歳で成 　　鳥になるという。幼鳥は羽毛の斑紋の様子から星五位と俗称される。五位 　　鷺は本来夜行性の鳥で、昼間は群をなして林間で眠り、夕方から朝方にか 　　けて水辺で魚、田螺、蛙、昆虫などを捕食すると言われる。 　　　先週見かけたのと同じ個体と思われるそのホシゴイは、浅瀬を溯って淵 　　の直前で立ち止まった。暫く目の前の水中を泳ぎまわる小魚を目で探って 　　いるようにも見えたが、水が深く不都合と諦めたのであろう、ふわりと舞い 　　上がり、川上に飛翔して滝の上に着水する。滝の上流は水深が浅く、水草 　　が一面に生えていて、その下にはいかにも小魚や水棲昆虫が居そうだ。い 　　よいよ活発に漁を始めるかなと見守る観衆（いつの間にか両岸のフェンス 　　には十人以上の見物人が張り付いていた）の期待に反して、流れの中央に 　　突っ立ったまま動かない。まだ昼間の眠りから十分覚めていないといった 　　風情である。「おい、何かやってみろよ」と声を掛けたいような気持ちになっ 　　た時、私の目の前を瑠璃色の物体が川下方向へ横切っていった。 　　　　　　　　　　　　前頁へ　　　　　　　　　　　　　　　次頁へ