この一ヶ月、週一回のウオーキングを欠かさなかったが、お目当てになっ
ていた「カワセミ君」には巡り会えずじまいであった。 どこぞへ引っ越してし
まったのかなと思いながらも、尚淡い期待を抱いて今日も片道約八キロを
歩き、井の頭池を巡り始める。
池の北端にかかって、南へ長く拡がる水面を眺めている時であった。 あ
の瑠璃色の光が、今しがた歩いた岸辺に垂れ下がる桜の枝に吸い込まれ
るのを目撃したのだ。対岸の水生物館の方角から飛んできたようだ。時計
を見ると四時半を回っている。
ようやく見つけたという感じで、急いでそれと思しきポイントに駆けつけた
が、桜の枝は水面すれすれに伸びて陰を作り、秋の夕暮れ近い弱い日射
しでは見通しが利かない。水辺に近づこうにも柵があってそれも出来ず、
暫く耳を澄まし、目を皿のようにして辺りの動きを探る。しかしながら、何の
反応も得られなかった。駆けつけるまでの僅かな時間にまた余所へ飛び去
ったのかも知れない。
春先からこれまでに井の頭池を巡った回数は十五回を下るまい。 この
間、ただの一度もカワセミに出会ったことが無かったのが不思議に思え
る。今日見かけた個体と、これまで神田川上流水域で見かけた個体が同じ
かどうかは確かめようがないが、限られた期間とはいえ毎週に近い観測で
得られた目撃の頻度から推して、この近辺に生息するカワセミの個体数は
僅かであることは間違いあるまい。季節により、時間により、その生活空間
を変えて生きている彼らを捉えることはなかなか容易ではないようだ。
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